高速道路では80km/hが経済速度だとよく言われます。なぜそうなるのか、ここでは物理の原理原則に基づいて考察します。
自動車の燃費計算の復習
ここでは簡単に自動車の燃費の計算について復習をします。詳細はこの記事↓をご覧ください。
この記事の「エンジン燃費マップによる燃料消費量の計算」節で述べたように、燃料消費量 $\mathrm{[cc]}$ はエンジンの作動点により決まる燃費 $\mathrm{[cc/kWh]}$ にエンジンが行った仕事 $\mathrm{[kWh]}$ を掛けて得られます。そして仕事は走行抵抗に移動距離を掛けて得られます。
つまり、移動距離が同じ場合は燃料消費量は走行抵抗に比例することが分かります。
平坦なところを一定速度で走行する場合の走行抵抗は、先の記事により、通常の小型乗用車を想定すれば一例として次の式で表されます。
$$F_{all}=0.05V^2+1.0V+100\tag{1}\label{p2616eq1}$$
ここで、$F_{all}$ の単位は[N]、$V$ の単位は[km/h]です。
時速80kmでの走行抵抗:$ 500\mathrm{[N]}$
時速80kmで走行しているときの走行抵抗は
\begin{eqnarray}
F_{all} &=& 0.05\times 80^2+1.0\times 80+100\\
&=& 500\mathrm{[N]}
\end{eqnarray}
と求まります。
時速100kmでの走行抵抗:$ 700\mathrm{[N]}$
それでは、時速を100kmに上げたらどうなるでしょうか。
\begin{eqnarray}
F_{all} &=& 0.05\times 100^2+1.0\times 100+100\\
&=& 700\mathrm{[N]}
\end{eqnarray}
と求まります。
走行抵抗は時速80kmのときに比べて
$$700\mathrm{[N]}\div 500\mathrm{[N]} = 1.4$$
倍となります。
時速120kmでの走行抵抗:$ 940\mathrm{[N]}$
2012年に開通した新東名高速道路ですが、道路構造上の設計速度は一部区間では時速140kmであると言われています。2020年には少しそこに近づき、制限速度が時速120kmに引き上げられました1。
では、時速120kmで走行した場合の走行抵抗はいくらになるでしょうか。
\begin{eqnarray}
F_{all} &=& 0.05\times 120^2+1.0\times 120+100\\
&=& 940\mathrm{[N]}
\end{eqnarray}
と求まります。
走行抵抗は時速80kmのときに比べて実に
$$940\mathrm{[N]}\div 500\mathrm{[N]} = 1.9$$
倍となります。
燃料消費量の比較:80km/hと120km/hでは倍半分の違いが出る
従って、燃料消費量は時速80kmのときを基準にすると、
- 時速100kmでは、$700\div 500=1.2$倍
- 時速120kmでは、$940\div 500=1.9$倍
となります。表にまとめると次のようになります。
速度[km/h] | 走行抵抗[N] | 燃費比 |
---|---|---|
80 | 500 | 1 |
100 | 700 | 1.2 |
120 | 940 | 1.9 |
時速120kmで走ると時速80kmで走った場合に比べて2倍近くも燃料を消費してしまうとは驚きですね。
その理由は空気抵抗にあります。空気抵抗は速度の2乗に比例するためです。時速120kmは時速80kmに比べて1.5倍の速さがあるので、空気抵抗は1.5の2乗で2.25倍になります。走行抵抗には空気抵抗以外に転がり抵抗という他の項もあるため、総合的にはそこまで大きくはならないのですが、それでも2倍近くにはなるという結果です。
時速120kmでは時速80kmに比べて2倍近い燃料を消費する
とはいっても実際にはもっと複雑
上記は完全に平らな道を一定の速度で走った場合を考えましたが、実際にはそんなことはないのでもっと複雑ではあります。
具体的には加減速です。特にブレーキを伴う減速が最悪です。ブレーキはせっかくの運動エネルギーを熱エネルギーとして捨てることで速度を落としているためです。ハイブリッド車はそのエネルギーも回生して電池に貯めるため幾分燃費はよくなりますが、それでももちろん回生率は100%ではなく、特に強いブレーキでは回生率が落ちるため、なるべく減速をしない運転を心がけることが大切です。もちろん、危険回避のための減速は行ってください。
しかしながら、原理原則的には空気抵抗が燃費に大きな影響を与えます。
その意味では、ルーフボックスなどで荷物を屋根の上に載せていることは燃費悪化につながります。もしかして使える情報集めさんのブログにはルーフボックスの設置により9.61%の燃費悪化が観測された事例が紹介されています。ここでは前面面積が10.9%増加したとありますので、これを元に少し計算してみます。式\eqref{p2616eq1}の中で空気抵抗の項は $0.05V^2$ で面積が10%増えたので式\eqref{p2616eq1}は
$$F_{all} = 0.055V^2+1.0V+100\tag{1′}\label{p2616eq2}$$
となります。時速80[km]で走行した場合の式\eqref{p2616eq2}は
$$F_{all} = 0.055\times 80^2+1.0\times 80+100 = 532\mathrm{[N]}$$
となり、元の500[N]に対して
$$500\div 532=0.939\;\longrightarrow\; \blacktriangle 6.0\%$$
です。実際には面積の増加分10%に加えて風の流れやすさの指標である $C_d$ 値も悪化するため(つまり、$0.055V^2$ ではなく例えば $0.058V^2$ とかの値になる)、観測された9.61%の燃費悪化はおおよそ理論的にも説明がつく範囲かな、と思います。
まとめ
走行抵抗を求めることによって時速80kmに比べて時速100km, 120kmの燃料消費量がどの程度になるかを考えました。その結果は、
速度[km/h] | 走行抵抗[N] | 燃費比 |
---|---|---|
80 | 500 | 1 |
100 | 700 | 1.2 |
120 | 940 | 1.9 |
というものです。燃費を悪くする主な原因は空気抵抗であり、速度の2乗に比例するためです。従って、
燃費よく高速道路を走行するにはある程度速度を抑える
ことが重要であることが分かります。
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