数学の問題を解く際、解法は一通りではありません。一つの問題を見たときに複数の解法が思いつくようになれば、定期テストや入試問題に向かう際にも余裕が持てるようになります。また、複数の解法が思いつけば、その中から最も楽な方法を選択することができます。ここでは、垂線の足を3通りのアイデアで求めます。最もおススメは下記の動画の解き方、内積を利用した射影ベクトルの解法です。
これの応用として、【直線に関して対称な点】や【点と直線の距離】もどうぞ。


問題を解くためのアイデアを確認
ここでは例題として次の問題を考えます。
直線 y=2x+1 に点 P(−1,4) から下ろした垂線の足 H の座標を求めよ。
私の好みは下記に示すアイデアのうち、法線ベクトルを利用したベクトル方程式の解法と、内積を利用した射影ベクトルの解法です。皆様はどうでしょうか。特に、エンジニアとしてコンピュータシミュレーションなどを行う際には射影ベクトルの解法が最もプログラムしやすいです。
傾きの積を利用

垂直に交わる直線の傾き同士を掛けると −1。
すなわち、傾き −ab の直線に垂直に交わる直線の傾きは、ba。
これはほとんど説明は不要でしょう。上の図を見れば明らかです。青線の式を y=−abx+cb と、ちょっと難しい式にしてしまっているのは、次の「法線ベクトルを利用」の絵とそろえるためです。
法線ベクトルを利用

直線 ax+by=c に垂直なベクトル(法線ベクトル)は、(ab)
上の「傾きの積を利用」の図と見比べながら理解をしてください。本質的には同じ絵です。青の式は同じです。つまり、
y=−abx+cb
は、式変形すると、
ax+by=c
となるので同じ式です。そして、赤の傾きは
ba
ですが、これはベクトルで表現すれば、
(ab)
です。つまり、ax+by=c の形にすれば、x の係数と y の係数を縦に並べたベクトルが法線ベクトルになっています。
そしてこれはなんと、3次元空間でも同様です。
2次元:直線 ax+by=c の法線ベクトルは、(ab)
3次元:平面 ax+by+cz=d の法線ベクトルは、(abc)
3次元空間でこの法線ベクトルを使いこなせると空間図形が得意になります。↓です。


内積(射影ベクトル)を利用

→OH=→OA⋅→OB|→OA|2⋅→OA
この式の正しさを説明する前に、まずは直感的にこの式が少なくとも →OH っぽいものを表していることを理解しましょう。式(1-1)の →OH は、
→OH=α⋅→OA
の形になっているので、確かに →OA の向きに H はあり、良さそうです。
では次に OH の長さがどうなのか、ちゃんと垂線の足になるような長さになっているのか、確認します。次のように変形して考えます。
→OH=→OA⋅→OB|→OA|2⋅→OA=→OA⋅→OB|→OA|⋅→OA|→OA|
ここで、
→OA|→OA|
は、 OA に向いた長さが 1 の単位ベクトルを表しますので、その前側の
→OA⋅→OB|→OA|
が OH の長さ |→OH| になっていればよいですが、実際なっています。内積の計算を思い出しましょう。下記なので、確かにそうなっています。

→OA⋅→OB=|→OA||→OB|cosθ=|→OA||→OH|
∴|→OH|=→OA⋅→OB|→OA|
以上をまとめると、
- 式(1-2): →OA|→OA| は OA 方向の単位ベクトル
- 式(1-3): →OA⋅→OB|→OA| は長さ |→OH|
よって、両者を掛けた式(1-1)は →OH を表します。
→OH=→OA⋅→OB|→OA|2⋅→OA
そしてこの →OH は、あたかも真上から光を当ててできる影のようなので、「射影ベクトル」と言います。
それぞれのアイデアで問題を解く
解きたかった問題をもう一度ここに記載します。
y=2x+1 に点 P(−1,4) から下ろした垂線の足 H の座標を求めよ。
傾きの積を利用
連立方程式を立てて解く方法
こんなイメージです。
点 H がどこなのかわからないので彷徨っています。わからない点 H を (a,b) と置いて、点 H が「ここだ!」という状態の方程式を立てます。
解
点 H の座標を (a,b) と置く。このとき、PH の傾きは
b−4a−(−1)
であり、それが傾き −12 になればよいから、
b−4a−(−1)=−12
また、点 H は直線 y=2x+1 上にあるから、
b=2a+1
(2-1), (2-2) を解いて、
a=1,b=3
よって、H(1,3)
垂直な直線との交点として解く方法
こんなイメージです。
点 P を通り傾きが −12 の赤の線が表れ、その線と青の線との交点が求めるべき点 H です。
解
点 P(−1,4) を通り傾き −12 の直線の方程式は、
y=−12(x+1)+4
求める点 H はこれと、直線
y=2x+1
との交点なので、(3-1), (3-2) を解いて、
x=1,y=3
よって、H(1,3)
法線ベクトルを利用
ベクトル方程式で解く方法
こんなイメージです。
2x−y=−1 の法線ベクトルは (2−1) であり、点 P からこの方向に赤の矢印が伸びてきます。そして、青の直線にぶつかったところで「ここだ!」となるイメージです。
解
直線 2x−y=0 の法線ベクトルは (2−1) なので、
点 P(−1,4) を通りこの法線ベクトルを持つ直線は媒介変数 t を用いて
(xy)=(−14)+t(2−1)
と書ける。この直線が 2x−y=0 に交わる点が H なので、これに代入して、
2(−1+2t)−(4−t)=1
t=1
よって、H(1,3)
共通テストでもベクトル方程式が
24年度の共通テストでベクトル方程式を用いる問題が出ました。必ずしも今回主題の法線ベクトルの問題ではないですが、直交を扱っている点では似ています。しかも、こちらは3次元空間です。
直接類題に飛びたい場合はこちら。
内積(射影ベクトル)を利用
射影ベクトルを求める方法1
こんなイメージです。
内積を用いて →QA 上に →QP を射影します。
なお、→QA はより単純な (12) でよいです。ここでは求めるべき →QH との混同を避けるため、あえて (24) にしたに過ぎません。自分で解くときには混同もないでしょうから、より単純な数字にして計算する方がよいです。
また、Q の取り方は、今考えている直線 y=2x+1 上ならどこでもよいです。別の点でもご自身で確かめてみてください。
解
点 (0,1)を Q、直線 y=2x+1 上の点 (2,5) を A とすると、
→QA=(24), →QP=(−13) であるから →QH は、
→QH=→QA⋅→QP|→QA|2⋅→QA=(24)⋅(−13)|(24)|2⋅(24)=1020(24)=(12)
Q の座標が (0,1) なので、
H(1,3)

内積の順番が解とアニメーションで逆になってしまいました。スミマセン。
若干の注意
いま、→QH と →QA とは同じ方向ですが、逆の方向でも大丈夫です。ご自身で確かめてみてください。例えば点 A を (−1,−1) に取るなどです。最初考えたときには負号が混乱してしまうと思いますが、やってみてください。
射影ベクトルを求める方法2
今度はこんなイメージです。先ほどとは射影する方向が違います。
解
点 (0,1) を Q、直線の方向ベクトルを →n とすると、→PQ=(1−3), →n=(2−1) であるから →PH は、
→PH=→PQ⋅→n|→n|2⋅→n=(1−3)⋅(2−1)|(2−1)|2⋅(2−1)=55(2−1)=(2−1)
P の座標が (−1,4) なので、
H(1,3)

若干の注意
こちらも先ほどと同様で、→PQ と →n を同じ方向に取りましたが、逆方向でも同じ式です。→n を (−21) にして計算してみてください。
まとめ
垂線の足を複数のアイデアで求めました。このように、一つの問題を複数の解法で解くことはそれぞれの解法の特徴を再確認でき、またどの解法でも解けるという引き出しの多さ、余裕を持つことができます。
また、点と直線の距離に絞れば「射影ベクトルを求める方法2」のやり方にて非常にスマートに解くことができます。↓の記事で詳しく扱っています。
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